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淡路島に移転1年 パソナが呼び込む企業ニーズ

  • 2021年12月15日
  • 読了時間: 5分

保育園とオフィスが融合したスペースで業務にあたるパソナのスタッフら=兵庫県淡路市


人材派遣大手のパソナグループが、主要な本社機能を東京から兵庫県の淡路島に移転し始めて1年が経過した。現在までに東京や大阪などから約230人が移住し、現地採用の従業員らを含めて計約600人が働く。都会にしばられない新しい働き方に注目が集まっている。同グループのオフィスや商業施設、レジャー施設などが続々と開業している現地を訪ね、スタッフらの生の声を聞いた。


休暇楽しみながら働く

「東京では満員電車で通勤しないといけないが、淡路島はオフィスが近い。朝出社して窓を開けるときれいな海が見えるし、食べ物もおいしい。仕事はこっちの方が快適にできる」

本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋の近くにある同社の拠点施設「ワーケーションハブ」(淡路市岩屋)で、女性社員は笑顔で語った。同施設は休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」を実現するための拠点といい、スタッフは東京や大阪の営業部門向けに請求書を作成する業務などにあたっている。

会社側も従業員がより快適に働ける環境整備を追求する。社員が働きながら同じ空間で自分の子供と過ごせる「ファミリーオフィス」(同市久留麻)は閉店したスーパーを改装し、保育園と社員用マンションを併設した施設。1階フロアは3区画のうち2区画が保育園とオフィスの融合スペース、残る1区画が座席を固定しないフリーアドレスのオフィスとなっている。


社員はマンションに住み、階下のオフィスでは総務部門などの業務に従事し、「職住近接」を実践。子供たちの歓声が響くそばで、ノートパソコンを開いて作業したり、打ち合わせをしたりしている。


保育士の一部は現地で採用。課外活動として園児たちが希望に応じてピアノや英会話などをプロやスキルを持ったボランティアの社員から習うことができるのは、同社の福利厚生の一環だという。


風を感じながら通勤

同社関西・淡路広報部の佐藤晃部長は「マンションからエレベーターを降りて0分で職場と保育園に到着する。オフィスは市内に全部で4カ所あり、仕事内容に合わせて社員が働く場所を選べるようにしている」と説明する。

だが、交通手段には課題も。オフィスや各施設はそう離れていないとはいえ徒歩での移動は容易でなく、マイカーや予約して使用するシェアカー、周遊バスでの移動が中心となる。

繁華街の神戸・三宮までは車で1時間弱。午後8時を過ぎれば本土とを結ぶ高速バスの本数も極端に少なくなり、気軽に往来することは難しい。

対岸の兵庫県明石市からフェリーで出勤する人もおり、自身も利用しているという関西・淡路広報グループの前田杏紗(あずさ)グループ長は「ドア・トゥ・ドアで船の移動を入れて自宅から職場まで約30分。風を感じながらの〝通勤船〟といった感じ」と慣れた様子で語る。


他企業の視察相次ぐ

一方、淡路島への本社機能移転が本格的に始まった昨年9月以降、同社にはワーケーションに関心を持つ企業から問い合わせが多く寄せられている。


こうしたニーズを受けて、パソナはオフィスや通信環境、宿泊場所などを有料で一括提供し、1~2週間滞在してワーケーションを体験してもらう企業向けのサービスを開始する。


佐藤氏は「昨年の問い合わせは300件を超え、BCP(事業継続計画)の一環や、本社から離れた場所にサテライトオフィスをつくりたいという企業の視察も多い」と説明。同社がインフラを提供することで他企業でもワーケーション導入が進むことを期待する。


音楽家の卵を支援







閉校した小学校を活用した地域活性化拠点「のじまスコーラ」。地元の特産品が並ぶ=兵庫県淡路市


パソナが淡路島に本社機能の一部移転を発表したのは昨年9月。東京勤務の約1800人のうち、約1200人を令和6年5月までに移動させる計画だ。社員の住宅確保が課題の一つだが、地元の理解もあり新規の建設や宿泊施設の借り上げが進んでいるという。

淡路島との関わりが始まったのは平成20年。島内の耕作放棄地を借り受け、独立就農を支援する農場「チャレンジファーム」を開設したことが原点にある。

以来、「人材誘致」による地方創生に挑戦するとし、島内の雇用を生み出しながら、地域資源を生かした「美食」や「文化芸術」、「健康」をキーワードに施設設置やイベントの実現に力を入れてきた。

廃校を活用した地域活性化拠点「のじまスコーラ」(同市野島蟇浦)のほか、海沿いのレストラン施設「HELLO KITTY SMILE」(同)、クレヨンしんちゃんなど人気アニメのテーマパーク「ニジゲンノモリ」(同市楠本)は取り組みを象徴する施設だ。


昨年8月に開業した地元の山海の幸が楽しめる劇場・レストラン「青海波(せいかいは)」(同市野島大川)は、音楽のプロを目指す若者集団「音楽島」のメンバーが食事中に音楽を奏でるだけでなく給仕などを行う従業員としても活躍する。









レストランで従業員として働きながらピアニストとしても活動する岸田武士さん(手前)=兵庫県淡路市

その一人でピアニストの岸田武士さん(27)は「洗い物で手が荒れることに戸惑いもあったが、お客さんと近くで接することで求められる曲が分かるようになったし勉強になる」と話す。新型コロナウイルス禍で芸術を披露する場が減る中で、経験を積むための支えになっているという。


10月末には収穫した野菜をシェフに調理してもらい楽しめる農家レストラン「陽(はる)・燦(さん)燦(さん)」(同市野島常磐)が新設。今後も島内ではパソナの関連施設が続々と開業する予定となっている。


複雑な思いの住民も

ただ、静かだった島が短期間で大きく変貌していくことに、地元の一部で懸念の声が上がるのも事実だ。

ある男性社員は「淡路島は人口減少が進んでいるとはいえ、食料自給率は100%を超えていて、産業に困っているわけではなかった」と指摘。「パソナが来たことで急に島外の人間が増えたり、観光施設ができたりすることに複雑な思いを抱いている住民もいる。地域に理解してもらい、連携を進めていかないといけない」と語る。(井上浩平)


 
 
 

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